NEWVERYは、今年度から大学・短大・専門学校などの高等教育機関を対象に、「就学就職ギャップ埋めます」プログラムの提供を開始しました。
IT、メディア、音楽、ゲーム、マンガ、アニメ、アート……これらは近年、技術の進歩などにより、産業のあり方が大きく変わってきている分野です。一昔前のイメージと、実際の現場の様子とに、大きなズレが生じているのです。このような変化が起こっている事業分野を対象に、産業界の「リアルな今」の姿を高校生に伝え、進路選択とキャリア形成に役立ててもらおうというのが、このプログラムです。
プログラム第2弾として、7月4日(火)、高校教員を対象にした「高大接続共創フォーラム」を開催いたしました。会場となったのは、宝塚大学・東京メディア芸術学部(東京都新宿区)。当日は「次世代クリエイター育成に向けた教育改革・新しい進路選択 ~10年後も食えるクリエイターとは~」と題し、NEWVERY理事・倉部史記が基調講演を担当いたしました。
フォーラムのテーマはずばり「クリエイター志望は不安定な進路選択なのか?」。
ゲームやマンガ、アニメなどに関わるクリエイターを志望する高校生は、どの学校、どの学年にも必ず数人はいるのですが、どのようにアドバイスすべきか悩む先生が少なくないようです。今回の講演は、クリエイター職の未来像を見据えながら、進路指導の場でどのように生徒を支えれば良いかを考えるというもの。当日は、総勢30名の教育関係者にお集まりいただきました。
以下、当日の様子をご紹介します。
講演「次世代クリエイター育成に向けた教育改革・新しい進路選択 ~10年後も食えるクリエイターとは~」(NEWVERY 理事 倉部史記)
「『現在の小学1年生の65%は将来、現時点で存在していない仕事に就く』という推計があります。たとえば10数年前にはどこの街角にもあった写真屋さんは、デジタルカメラという発明品が世に出た結果、急速に街から失われていきました。専門スキルを持った人であっても、その仕事で一生食べていけるとは限りません。
かつて企業の寿命は30年と言われていましたが、現在の調査では、1つの会社が繁栄を謳歌できる期間は18年にまで短縮されたそうです。大企業に就職すれば安泰、というわけではないのです。」
「クリエイターは不安定だ、とイメージされる方も多いようですが、そもそもクリエイターに限らず、あらゆる職業が急激な変化の中に置かれている時代。一般的な勤め人として就職できれば安心という前提が、そもそも危険な勘違いではないでしょうか。」
このような問題提起から、倉部の講演は始まりました。
消えゆく仕事とは何か
10~20年後には、日本でも労働人口の半数近くが人工知能(AI)やロボットで代替可能という予測があります。その一方で、「抽象的な概念を創り出し、整理する力や、他者とのコミュニケーション能力が求められる職業などは、AIでも簡単には取って代わることができない」という分析結果もあるそうです。
AIやロボットでは真似できない力を育てよう、という趣旨で近年注目されているのが「STEAM教育」というコンセプト。「Science、Technology、Engineering、Arts、Math」の頭文字だそうですが、中でも「Art」の部分が要注目だと倉部は言います。
「科学技術が発展すればするほど、それが人間社会のためにどうあるべきなのか、考え、構想する力も必要になるのです。」
倉部が高校で講演していると、よく「食べていくのに有利な資格や職業を教えて欲しい」という質問を受けるそうです。「一生を保証してくれる資格や専門知識・技術など存在しない。その専門知識を活かして仕事を自分で創れる人材こそ、最も変化に強く、食うに困らない人だ」と返すとのこと。会場も、これに頷く方が多かったようです。
「一生食べていける資格」は存在しない
講演の後半では、10年後も食べていけるクリエイターのあり方について、示唆する例がいくつか紹介されました。その一つが、「ひとつのスキルだけで勝負するのではなく、複数のスキルのかけ算で勝負しよう」というもの。複数の技術を組み合わせて勝負するクリエイターもいれば、実際の仕事の現場では、営業力やプロジェクト進行など制作技術以外の部分に強みを持ち、評価されているクリエイターもいるのです。
このような力を育てるため、大学も議論や発表を重視する「アクティブラーニング」型の授業や、企業などと一緒に具体的なプロジェクトに取り組む授業など、実践的な教育に力を入れているとのこと。
「大学と専門学校では、このあたりのバランスは異なるし、大学によってもどのような教育を重視しているかは異なるので、『どのようなクリエイターを育てようとする学校なのか』という視点で各校のカリキュラムや教育環境を比較することが大事です。」
最後は、クリエイター志望者への進路指導のあり方についても、様々なアプローチの仕方が紹介されました。現在、多くの大学生が入学後に中退しています。大学や専門学校を中退した方で、正規雇用に就けるのはたったの7%。
「学校の先生や保護者が、よかれと思って親心で勧めた進路でも、本人が望まない学びなら長くは続かない。本当に学びたいことを生徒に考えさせてほしい」。こんなメッセージで、講演は締めくくられました。
参加してくださった皆様からは、「文系・理系といった進路選びではない場合の進路指導は難しいことが多く、クリエイターという道への進路づくりという点で、新たな発見があった」といったご感想をいただきました。
関連:クリエイターに関する過去のプログラム
「ゲームクリエイターになるために一番重要なこと」(GAMKIN株式会社社長 沖永氏)もぜひご覧ください。
講演「宝塚大学の学びと今後の業界トレンド」(宝塚大学・吉岡章夫先生)
「21世紀を生き抜く3つの力は、情報処理能力、基礎人間力、情報編集力の組み合わせ。高校までに身に着けてきた情報処理能力と基礎人間力を活かし、大学で学ぶべきは“情報編集力”だ」
吉岡先生の講演は、このような、大学で学ぶ意義についてのお話から始まりました。
続いて、産業社会の様々な場面で生まれている技術革新の事例を紹介。通信ソフト「Skype」のリアルタイム翻訳機能や、DeNAとヤマト運輸による「ロボネコヤマト」の自動運転宅配機能、喜怒哀楽の感情を持つロボット「ペッパー」の開発、Amazonの音声分析技術「Alexa」による音声自動注文、などなど……近年目まぐるしく発達するAIの技術革新がいかなるものかを目の当たりにし、会場からは驚きの声が上がりました。
(ロボネコヤマト) ロボネコヤマト(公式)
(Amazon Alexa) ZDNet Japan アマゾン「Alexa」が注目を集める理由–「スマートホーム・ハブ」の本命?(2016年04月24日) / WIRED Siriの地位を奪う、アマゾン「Alexa」の怒濤の勢い(2017年04月03日)
クリエイターを取り巻く環境の変化
クリエイターを取り巻く環境も、大きく変わっているそうです。画像投稿サイト「pixiv」では、線画で書いたイラストに自動で着色してくれる技術があるとのこと。これまでなら「適切な色を判断し、塗っていく」という仕事はクリエイターが担当していましたが、この職能がAIに取って代わられてしまう可能性もあるのです。いくつかの指示をすれば自動的にオススメのWebデザインを提案してくれる「Wix ADI」というサービスや、ゲームエンジンによる自動ゲーム作画なども。こうした技術進歩のなかで、クリエイターの役割とはどう変わっていくのか、問いかけとして先生からは提示されました。
2029年には、コンピューターの知能が人間を超える「シンギュラリティ」という現象が、私達の社会で現実になるそうです。その後やってくる「ポスト・シンギュラリティーの世界」で、どう生きていくべきでしょうか。
「AIが生み出したものの中には、私達の予想や期待と違うものがあります。クリエイターに必要な能力とは、それが良いかどうかを判断する『目利き力』であったり、それを利用したアピール力であったり、新しい仕事を創る力や、お金を生む力であったりします。そうした能力を身に付けられるよう、常に変化する世界に危機感を持ちながら、学生の指導にあたっています。」
講演の最後に先生が語ったメッセージが、多くの参加者の印象に残ったようです。
宝塚大学東京メディア芸術学部の特徴
宝塚大学東京メディア芸術学部では1年次からクリエイターとして働くという意識付けを行っており、4年を通じて密なキャリア教育を行っています。
企業、地域と連携した実践の場の提供にも力を入れています。地域連携プロジェクトも多数行っており、メディアデザイン領域の渡邉哲意准教授が中心となり、新宿区が主催する新宿クリエイターズ・フェスタのブースのプロデュースから作品の展示までを学生たちが担当。
マンガ領域では、月刊!スピリッツで「神軍のカデット」を連載中の川端新さんなど、卒業生で単行本デビューし、活躍している方もいます。それに加え「ドルクエ!」を「裏サンデー」で連載しているはらまさきさんなど、Web媒体で連載している漫画家の方も増えているとのこと。芦谷耕平専任講師を始めとする教師陣が、アニメーション「ジョジョの奇妙な冒険」に代表される有名作品に関わりがあり、実際に学生がその仕事に関わるチャンスもあります。
下駄製造販売の(株)水鳥工業と「げた・擬人化」プロデュースなど
社会とつながるメディアデザインの力を学ぶ体験プロジェクト
大学内には、UIの設計とデザインの実装プレイステーションVR向けゲーム制作などを行っている (株)ジェットマンが教室とガラス一枚を隔ててオフィスを構えており、学生もアルバイトやインターンとして社会経験を積むことができます。
国内の大学・専門学校の中でも、世の中に出る商品を作成しているような企業がガラス1枚を隔てて隣にオフィスを構えている大学はおそらく宝塚大学だけでしょう。
最先端のMR(複合現実)装置「Microsoft HoloLens」の紹介
吉岡先生が手がけたプロジェクションマッピングの模様
学外で学べるようなプロジェクトにも積極的に参加しており
学生チームが参加した「プロジェクションマッピングアワード」での
参加作品はめざましテレビでも紹介された。
最後に、宝塚大学東京メディア芸術学部の学生や卒業生が自分たちの作品やプロジェクトの説明をしてくれました。
大学院生の石川雄仁さんから、新宿区とのプロジェクトや、彼が代表理事を勤める一般社団法人MRSについて説明頂きました。実学および地域社会との連携を真剣に模索する姿に次世代クリエイターの片鱗を感じたような気がします。
夏の宝塚大学東京メディア芸術学部のオープンキャンパスは下記の通り
7/23(日)10:00-15:00
『ジョジョの奇妙な冒険』キャラクターデザイン 小美野雅彦先生の特別講義
ビジュアルプログラミング体験
コスプレクロッキー&デッサン
デジタルイラストを描く!超基本編
http://www.takara-univ.ac.jp/tokyo/opencampus/
7月30日(日)10:00-15:00
8月8日(火)10:00-15:00
さらに、NEWVERYと宝塚大学の共同企画第3弾は8月26日(土)実施予定です。